今やスマートフォンは、日常に欠かせない存在になりました。
朝はアラームで目を覚まし、天気や予定を確認し、通勤中にはスケジュールチェックや振込まで済ませる。まるで万能の相棒のようです。
でも――気づけば、その便利さと引き換えに、大切な“読書の時間”を失っていました。
読みたい本が山ほどあるのに、つい手が伸びてしまうのはスマホばかり。そんな自分に気づいた朝、ふとページをめくったのが、あの雑誌でした。
『婦人乃友』との再会
『婦人之友』――それは、日本で最も歴史のある女性誌の一つです。
創刊は1903年。羽仁もと子・吉一夫妻によって家庭の在り方、暮らし方、生き方に光を当てる雑誌として始まりました。家計簿の普及、衣食住の合理化、家族関係の民主化など、時代に先駆けた提案をしてきたこの雑誌は、私の人生の節目節目に寄り添ってくれた存在です。
若くして結婚し、専業主婦となった私は、育児の合間にこの雑誌に出会い、読者による「友の会」にも参加するようになりました。
家計、教育、環境、そして社会を“家庭から見つめる”という視点を持つ時間。
年齢も背景も違う人たちと意見を交わし合うことで、自分の視野が少しずつ広がっていくのを感じました。
まだ幼かった我が子を抱えての参加にも、年配の方が優しく声をかけてくれたのを覚えています。
「こうやって順番なのよ。あなたもいつか、誰かにしてあげられる時が来るから。」
あの時の優しい言葉は、今も私の中に静かに息づいています。
やがてパートからフルタイム勤務へ。
忙しさに追われ、「友の会」からも離れてしまいました。
誰にも何もお返し出来ないまま迷いながら退会したことは、今でも心に残る後悔のひとつです。
それでも、ページをめくるたびに
退会しても、雑誌を開く時間だけは手放したくありませんでした。
ページの中に、自分の心が欲しているものを探す。
言葉を通してまたどこかでつながっていたいという願いとともに。
今月号で出会った羽仁もと子さんの言葉は、思考というより、まっすぐに心に響いてきました。
「汝は幸いである。汝は自由である。
理想は天のようなものである。生活は地のようなものである。
汝はほんとうに親と親しいのか。兄弟を愛しているのか。
太陽よりも早く身支度をし、夜は月と星に守られて眠っているのか。
然りと答え得るあならば、汝の足は地についているのである。」
大切な人を大切にし、地に足をつけて暮らしているかと問われれば、
然りとは答えられない私がいます。
けれど、その問いかけに落胆しつつも、また力をもらえるのもこの言葉の不思議なところです。
お酒が好きで、自由気ままに生きている今の私。
でも同時に、心の奥にある「こうなりたかった私」も確かにいて。
どちらも、間違いなく“本当の私”なのだと思います。
もうすぐ迎える還暦。
だからこそ、もう一度、理想という空を見上げながら
しっかりと地に足をつけて歩き出したい――そう思えた、ある朝のことでした。

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